「"放送局悪玉論"超え、新たなネットビジネスモデルの議論を」について思うこと。


http://journal.mycom.co.jp/articles/2008/03/27/jasrac/menu.html
動画共有サイトに代表される新たな流通と著作権」をテーマとしたシンポジウムについて興味深かったので。

(1) デジタルコンテンツ流通の停滞、「本当に著作権が悪いのか」

JASRACが2007年7月に定めた「動画投稿(共有)サービスにおける利用許諾条件」によって、
動画共有サービスの運営者が投稿される動画の著作権料を支払っていく形で決着しそう。
そうなるとある程度のコンテンツに関しては(TVで放送されたものや音楽の使用など)公に見ることができるかもしれない。
ただ"ある程度"の線引きの問題がでてくるけど。


ドワンゴ 代表取締役会長の川上量生氏の発言

著作権を侵害しているコンテンツについての対応については、
「放送局のコンテンツなどは自主的に削除を行っているが、誤削除する場合もありユーザーからの批判をあびることもある。
違法コンテンツ削除のルールを自主的に構築することを模索している」と現在の状況を話した。

以前のニュースでして著作権侵害動画への対応策を発表したニコニコ動画だが、どうやら違法コンテンツ削除のルールを構築したいらしい。
自主的とはいっても元の著作権者との間に削除する/しないラインを協議しているんだろうか。
参考:ニコ動がテレビ局に宣言「番組の著作権侵害動画はすべて削除します」 impress watch


慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏の発言

「デジタルコンテンツは流通の問題ばかり議論されるが、経済力が落ちていく日本において本当に必要なのはソフトパワー」と述べ、
コンテンツそのものの魅力を高めていく必要性を主張した。

海外の事情にも触れ、「米国で一番重要視されているのは、視聴者の視聴環境をいかによくできるかということであり、
ユーザーがコンテンツの視聴において最も都合のよいメディアを選べる状態にすることが最も重要とする認識が広がっている。
この面で欧米は進んでおり、日本は遅れていると言わざるを得ない」と苦言を呈した。

これに関してはまったくその通りだなぁ。面白くない物に時間をとられたくないわけで。
ニコニコ動画にしろ、そのほかのネットサービスにしろ、まだネットには面白いものがそこにあるんじゃないかという期待感がある。
TVなんかは一方的に情報を眺めているだけだけど、ネットは自分から探しにいけるのが利点なわけで。
ニコニコだったりYoutubeだったりが面白いものを見つけることができる窓口として機能すればよいなぁと思ったりする。
ただ広告を主とするTVとコンテンツを主とするメディアの間に結構な壁がある気がするけど。


(2) テレビとネットで国内のパイを奪い合うのはナンセンス
立教大学社会学部 メディア社会学科 准教授の砂川浩慶氏の発言

「悪者探しでは何も解決しない」と主張。
「デジタルコンテンツ流通が進まない理由を、著作権や放送局のせいにすることで議論が止まってしまっている。
 現実には解決策があり、話を前に進めていけば必ず解決できる」と述べた。

「流通だけを考えればいいという考えもおかしい」とし、
「NTTなどが一生懸命になってコンテンツを流す仕組みを考えても、『流すコンテンツがない』という状況が生まれているのではないか。
流通だけ考えるのではなく、文化的な創造がなければ意味がない」と述べた。
その上で、「既存のコンテンツの二次利用だけ考えるのではなく、新しい創造こそ必要」と話した。

悪者探しをしてもどうしようもないのは事実。
新しい創造というけどどういったものをイメージしてるんだろう。


ホリプロ代表取締役社長 COOの堀義貴氏の発言

「スーパーの商品でも差異化が求められるような時代に、何でもいいから流通させればうまくいくというのは幻想にすぎない」

「ネット事業への投資など設備投資がすぎてコンテンツ制作費が落ち、その結果視聴率がとりにくくなる。
そうすると各社横並びの番組ばかり作るようになり、さらに制作会社が疲弊する、といった悪循環に陥っている」と、
ソフトパワーを生み出す制作者側の力の減退を指摘。

「現実にテレビ局の決算は悪くなり、ラジオも壊滅的。日本のマーケットの中でパイの取り合いをしても意味がない。
一過性の感性で走ると日本のエンターテインメントは沈む。
テレビ局では作れないコンテンツを作ることができるクリエイターをネットから探し出すなど、新たな試みが必要」と述べた。

価値観の多様化に対してTVのような大衆メディアが力を持ちにくい状態になってるとは思う。
ソフトパワーの減退というけど、見えない大衆を動かしうるコンテンツを作れというのは酷な気がするし、
新たな試みといえばいいというものではない気がしますが。
出版では結構ネット発が浸透してきたけど、映像は猫なべ、音楽ではランティス組曲ぐらいかしら。

(3) "コピー課金型"ではなく"サーバー課金型"のビジネスモデルを

全体の議論のまとめから
(1)何でもいいからネットで流せばうまくいくといったバラ色の議論がなぜ主流となったのか
(2)著作権者が悪いといった議論がなぜ横行しているのか
(3)ネット配信とマスメディアの関係は今後どうなるか

(1)に関しては新しいメディアに対する期待と誤解ですかね。
ネットは新しい情報インフラなだけだと思うんだけどねぇ。そこに過剰な期待を持って現実とのギャップにがっくりくると。
(2)に関してはなぜか"ネットはただ"という認識が広まってることが問題かもねぇ。
コンテンツに対しお金を払うということは正当なことなのにねぇ。(利用に対する対価なんだし)
(3)に関してはマスメディアがもはやマス(大衆)を捉えることができなくなってることに対してある意味鈍感なのが問題化じゃないかと。
これに関してはネットを使ってきた今の世代がもっと上の世代になったときにしかわかんない気がする。
今の状況からは想像ができないんだよなぁ。


全体の議論をみると著作権をどうクリアーするかということより、むしろそこに流れるコンテンツの重要性が強調されている。
有識者の認識がそこに向いてるのはいいことだと思うけど、最終的にコンテンツを作っている人がきちんと評価され、
対価を得ることができる環境を構築する方向に話が進んで言ってくれるといいなと。