桃井はるこ大いに語る/アニソンマガジンVol.4
桃井はるこの初オリジナルアルバム「Ssunday early morning」についてのインタビューが読みたくってアニソンマガジンVol.4を結局買って読んだ。
表紙は田村ゆかりで巻頭インタビューなのかと思ったらなぜかモモーイのインタビューが一番最初。
記事を読んだ感想としてはこれだけで1000円払ってもよいぐらいに内容が良かった。
内容は桃井はるこ大いに語るといった感じで、本人による全曲レビューつき。
音楽雑誌にありがちなインタビュアー主導ではなく、本人が積極的に語ろうとする姿勢が感じ取れていい感じ。
以下内容についてだらだらと。
AVEX以降について
アンセブ解散以降の流れは
2004年Under17解散→美少女ゲーム中心(約1年)→AVEXにて 「momo-i quality〜ベスト オブ モモーイ〜」
エイベックスさんって、ちょっと名前が通るじゃないですか。
かたや桃井はるこってアングラなイメージがありますよね。
「アングラなとこがイイ」みたいな。
iTunesで配信できるというのも大きな魅力でした。 〜中略〜
私がエイベックスさんに移るということで、"遠くに行っちゃった感"が出たら嫌だなとは思っていたし、
「違うんだよ、みんな!」という感じも、ちょっとはありました。冒険だったと思うんです。
でも、エイベックスの皆さんは私のことをちゃんと評価してくださったんですよ。
桃井はるこというイメージをしっかり持っているなぁと。
見られる側としての意識がはっきりと表れていて、それを冷静に俯瞰してみている。
そして当時のAVEXのイメージ(のまねこ騒動の影響などか?)を踏まえつつ、自分がきちんと評価され、
これからのアーティストとして活動していくのに必要な環境を選択している。
こういったクレバーな面はインタビュー全体を通して感じる。
Under17解散について
解散の理由について
ただ、私たちの手から離れた音楽についてはどうとっていただいても構わないんです。
でもやっぱり、作り手がそうなっちゃいかんだろう、という気持ちが強くて。
「掛け声が入っていて、可愛い声で歌うのがアンセブらしいのか?」みたいな。
美少女ゲームを中心に電波的な曲を歌うことで存在感を示してきたことがむしろ音楽的な足枷になっていたと。
音楽的な自由度を考えると確かに今の方が圧倒的に高い。
ベストアルバム以降
はるこ☆UPDATE → アキハバLOVE 〜アキバと一緒に大人になった〜 → COVER BEST−カバー電車−
こうした最近の活動がなぜ桃井はるこが"オタク"や"秋葉原"にこだわるのかということの理由を示しているとのこと。
桃井はるこは自分のルーツに対して非常に自覚的で、"オタク"であることがこれまでの活動すべてにつながっている。
そういう意味でこれらの活動はこれまでの桃井はるこをまとめる仕事になり、今度の活動へとつながっている。
07年度の活動
アメリカでのライブ、カバー電車でのソロライブ、momo-i名義での志倉千代丸の曲、アニメロサマーライブ、ドイツでのCONNICHI2007
「歌って楽しいなぁ」と実感したんです。」
「私はもっと楽しまなきゃダメだ!」
これを受けて"『Kawaii! JeNny』をFCゲーム化してみた"のような試みを行ったらしい。
それ以降もニコニコ動画でいろいろアップしている。
ああいったフリーダムな試みをやれる環境はなかなか作れるものじゃないと思う。
「Sunday early morning」について
CDが売れる事はもちろん大事なんですけど、自分が楽しんで、みんなが楽しんでくれるっていうことが、まず基本だということに改めて気づいて。
じゃあ楽しくやろう!と作ったのが、アルバム・タイトル曲「Sunday early morning」なんです。
今までも、私なりのダブルミーニングとか、恋愛を別な言葉でなぞらえるとか、そういうのはあったんですけど、また違った意味での表現性ですよね。
桃井はるこの言語観は本当にすごいと思う。
思春期→春期発動期の読み替えで思春期というどこか恥ずかしい言葉を歌い上げているのはほんと脱帽。
「Space love」あたりはその際たるものだと思うんだけど。
恋人たちのコインランドリーでの何気ない風景が宇宙へとつながっていく浮遊感が言葉と意味の二重性で表された名曲だと個人的には思ってる。
Get Wildについて
他の曲とのバランスをとる為に何回か歌ったのですが、秋葉原のことを歌ってるようにしか聴こえなくなったんですよ。
〜中略〜
クールに歌ったんだけど、テーマが「オタクの哀愁」になっちゃった(笑)。
ナタリーでのインタビューと同じく拡大解釈すげー。
桃井はるこ「BEST CLIP」について
「Sunday early morning」いろいろとネタが仕込んであって何度も見返してマジカル頭脳パワー的楽しみ方をしてほしいそうです。
というわけで買うといいと思うよ。損はしないと思うしね。
アニソンマガジン読者に対して
アニソンも区別したら文壇になっちゃうでしょ?って。
「アニメが大好きー!!」と言ってる「Enter!」もあるんだけど、
もう20年位前に山本正之さんが歌っていたことで、「アニメが好きだ!大好きだ!」と言われたら、
もうそれ以上の言葉はないんです。じゃあ、08年に私がどう表現するのか。その答えが「Sunday early morning」です。
−今の状況を冷静に俯瞰して、アニソンについてそこまで言えるアーティストは桃井さんだけですよ。
分かる人が分かるっていうことかもしれませんねぇ。
それでいいと思ってますので。
アニメソングやオタクなどをある意味ここまで突き放してみてるのは本当に桃井はるこ以外いないかもしれない。
できればアイドルソング、アニメソング、アキバカルチャーの歴史的な文脈から今の現状を解釈してみてほしいなぁ。
曲のレビューより
6 今、あなたが好き
超まじめなラブソングに聴こえるんですけど、私の中ではオタップルを想像してます。
「Enter!」と「今、あなたが好き」の温度差、年齢差がものすごくて、そこが桃井さんらしいかな?って。
これ読むとほとんどのラブソングがオタップルを歌った歌だと感じるように。
「フィギュアになりたい」なんてど真ん中、「Chuo-line」あたりもそうだなぁ。
あと”そこが桃井さんらしいかな?"という部分が気になる。
自分の作った曲をかなり俯瞰で見てるなぁ。
というよりむしろ"桃井はるこ"そのものを俯瞰で見てるのか。
桃井はるこの活動を考えるとき、名義(桃井はるこ、momo-i、DJモモーイなど)による違いは重要なんだろうなぁ。
全体の感想
桃井はるこの過去から現在までの活動をまとめながら、今の桃井はるこが考えていることが伝わってくるいいインタビュー。
できれば桃井はるこがアニソンマガジンで記事とか書いたらいいんじゃないかと思う。
ついでに個人的に思ったことをひとつ。
黒歴史の無い桃井はるこってすごい。
周りが黒歴史だと考えることはあっても本人はその自覚が無い、というか黒歴史をつくらない。
この理由のひとつは桃井はるこ自身がオタクであるからだとおもわれる。
アイドルが過去にどういったことをしてという知識を持っていることは、オタク(ネット普及以前のオタク像だが)にとってはステータスである。
オタクである桃井はるこは自身の過去についても誰かが知っているということに対し自覚的であると思う。(自身がアイドルオタクだから)
また過去の自分の仕事やそれにかかわってくれた人々に対する誇りから黒歴史化する(無かったことにする)ことに抵抗があるのじゃないかと。
こういった自分の過去をそのままに引き受ける態度はなかなか取れないすごいことだよなぁ。